企業が自社株買いを実施すると、それは株高の要因になるというのが一般的な解説です。当コラムでも第87回にてこれを取り上げました。
企業が自社株買いにより自己株式を取得すると、1株当たり純利益を計算する際の発行済株式数が減少します。そのため、1株当たりの価値が上昇し、1株当たり純利益が増加することになります。1株当たり純利益が増加すれば、PERは低下しますので、株価の上昇要因となります。
また、自己株式は純資産のマイナス項目のため、自己株式を取得すると純資産が減少し、ROEの改善にもつながります。これも株価が上昇する一因です。
さらには、市場に出回っている株を吸収することによる需給の改善も期待できます。
でも、実は自社株買いの話はこれで終わりではありません。この先にまだ続きがあったのです。
企業は自社株買いを実施したあと、取得した自己株式をどのようにしているのでしょうか。ひとまずはそのまま保有を続けるのが一般的ですが、最終的な処理方法としては2つしかありません。それは「処分」と「消却」です。
自己株式の処分とは、言い換えれば売却です。企業自身が保有していた自己株式を、他に売却することです。自己株式の消却とは、文字通り保有している自己株式を消し去ってしまうことです。
実は、自己株式を「処分」するのと「消却」するのとでは、意味合いが全く違います。そして、株価に対する影響も大きく異なってくるのです。
例えば、8月29日に自己株式の処分を発表した日新製鋼(5413)の株価は、週明け9月1日には前週末比8%安の1,012円まで下落しました。
翌2日の日本経済新聞の記事では、発行済株式数の約9%の自己株式の売り出しによる1株当たりの価値低下や需給の緩和を警戒した売りが膨らんだ、と解説されています。
結論から申し上げますと、自己株式の「処分」は株価下落の要因となります。上の日新製鋼のケースはまさにこれに該当します。
自己株式の取得は1株当たり当期純利益の増加やROEの改善につながり、株価上昇の要因となることは上で説明したとおりです。
しかし、この「1株当たり当期純利益の増加」や「ROEの改善」は、あくまでも計算上のものでしかないのです。ですから、自己株式の取得によって株価が上昇したとしても、油断はできません。
具体例を挙げて時系列で説明してみましょう。なお、当期純利益は毎年1億円で変わりないものとします。
自社株買いにより1株当たり当期純利益が100円から125円に増加し、PERも低下しますので、株価の上昇が期待できます。
(※)1株当たり当期純利益計算上のもの。以下同様
このように、自己株式の処分によって1株当たり当期純利益が125円から100円に減少し、PERも上昇しますので、株価下落の恐れが高まります。
一方、自己株式の「消却」は株価下落の要因とはなりません。その理由を具体例で説明しましょう。前提条件は上記の「処分」のケースと同じです。
自社株買いにより1株当たり当期純利益が100円から125円に増加し、PERも低下しますので、株価の上昇が期待できます(上記「処分」のケースと同様)。
このように、自己株式を消却しても1株当たり当期純利益に変動はないため、株価下落の要因とはなりません。
むしろ、消却した自己株式は元に戻せないため、将来自己株式の処分による1株当たりの価値低下の恐れがなくなることから、株価にプラスの要因として働く可能性もあります。
いかがでしょうか。自己株式を「処分」するのと「消却」するのとでは大違いであることをご理解いただけたでしょうか。
次回は、自己株式の処分の法的な意味合いや、自己株式処分による株価下落リスクへの対処法などについて解説をしていきます。
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足立武志
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3,000万円超 1,070円(税込)
〔超割コース(信用取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 148円(税込)
50万円まで 198円(税込)
50万円超 385円(税込)
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〔超割コース 大口優遇(信用取引)〕
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