前回のコラムにて、決算数値の読み取り方の基本をお話ししました。今回は、それを踏まえ、より実践的な内容を取り上げたいと思います。これをお読みいただければ、なぜ過去最高益の決算を発表したラオックス株の株価が大きく値下がりしたのか、その理由が分かると思います。
ラオックス株の株価の推移について、株価チャートで確認しておきましょう。ラオックス株が本格的に上昇をはじめたのは、2014年の夏ごろです。その後、株価は約1年間上昇を続け、2015年7月24日に564円の高値をつけました。その後は一貫して下落を続け、2015年12月期の本決算発表後の2016年2月15日には122円の安値をつけています。高値から半年強で、株価が5分の1近くまで下がった計算となります。
ラオックス(8202)日足チャート
では、ラオックス株の業績が大きく悪化したかというと、「表面上」はそんなことはありません。それどころか、2015年12月決算は大幅な増収増益で、過去最高益を達成したくらいです。
過去最高益を達成したにもかかわらず株価は半年で5分の1近くに下落と聞くと、「どう考えても割安」と思ってしまうのが個人投資家の悪い癖です。現に、株価が値下がりを続ける中、ラオックス株の信用買いの残高は増える一方で、多くの個人投資家がナンピン買いや逆張りの買いを行っていたのです。
なぜ株価がここまで下落してしまったのか、そのポイントは上で表現した「表面上」という言葉です。実は、決算の数値をしっかりと読み取っていけば、ラオックス株がここまで大きく下落してしまったことについても納得がいくのです。
ラオックスが発表した2015年12月期決算は、売上高が92,693百万円(前期は50,196百万円)、営業利益が8,586百万円(前期は1,736百万円)と、前期に比べて大幅に増収・増益となり、過去最高益を達成しました。また、第1四半期~第3四半期の決算も含めて、累計ベースで当期(2015年12月期)と前期(2014年12月期)を比べてみると以下のとおりです。
(単位:百万円)
1Q | 2Q | 3Q | 4Q | ||
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 当期 | 18,213 | 45,168 | 72,574 | 92,693 |
前期 | 9,431 | 20,230 | 33,075 | 50,196 | |
営業利益 | 当期 | 1,826 | 4,975 | 7,478 | 8,586 |
前期 | 59 | 293 | 963 | 1,736 |
これを見る限り、第1四半期~第4四半期のいずれも、累計ベースでみれば売上高、営業利益とも前期に比べて当期は大きく伸びており、業績は絶好調のように見えます。
実は、上表に掲載した数値は、決算短信にそのまま載っている「表面上」のものです。ラオックス株の業績の推移を正確に把握するためには、この「表面上」の数値をそのまま用いるだけでは足りません。決算短信の数値を少し加工する必要があるのです。
それが次の表に示したもので、これは四半期(3カ月)ごとの売上高および営業利益の推移を、決算短信の数値から筆者が計算したものです。
計算といっても簡単なもので、例えば4Qの売上高であれば、本決算の決算短信の売上高から、第3四半期決算短信の売上高を差し引けば求められます。
(単位:百万円)
2014/12期4Q | 2015/12期1Q | 2015/12期2Q | 2015/12期3Q | 2015/12期4Q | |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 17,121 | 18,213 | 26,955 | 27,406 | 20,119 |
営業利益 | 773 | 1,826 | 3,149 | 2,503 | 1,108 |
皆さんは、これをみてどのように感じますでしょうか。第2四半期が業績のピークだったことに気が付くのではないでしょうか。もちろん、第2四半期の決算発表時点では分かりませんが、第3四半期の決算発表(11月中旬)の時点で、第3四半期において売上の伸びが止まり、営業利益が減少していることをもって、第2四半期が業績のピークだった可能性が高いと判断することは十分可能だったはずです。
少なくとも、「好業績なのに株価が下がっているから割安だ」とこのタイミングから新規買いすることは避けられたのではないでしょうか。
そして、ラオックスはホームページにて「月次状況報告」を開示していて、ここには月別の売上高の前年比が掲載されています。これをみると、2015年6月には売上高前年比が402%と最高水準に達していたのですが、翌7月には272%と大きく落ち込んでいることが分かります。これを見れば、業績のピークは6月だった可能性が高い、ということが7月分の月次報告が発表された8月20日には判断できたのです。
高成長が期待されている銘柄の場合、「業績のピーク」と「株価のピーク」がほぼ一致することが多いものです。業績のピークは2015年6月、株価のピークは7月ですから、後からみると株価というものは会社の実態をよく表しているなあ、と感心してしまいます。
ラオックス株が過去最高益の決算を発表したにもかかわらず、発表翌日の株価は大きく売られました。すでに高値から70%以上値下がりしていた水準から、さらに叩き売られた格好です。
その理由は、もちろん上で説明したように四半期ベースの業績の伸び悩みもありますが、それ以外に考えられるのが、来期の予想数値です。
2015年12月期決算短信によれば、2016年12月期の業績予想は売上高が100,000百万円、営業利益が7,000百万円と2015年12月期比で7.8%増収、18.4%の減益となっています。2015年12月期の大幅増収増益と比べると、増収幅はほんのわずか、利益に至っては減益の予想となりました。これをみた投資家の多くは、「ラオックスの業績成長は完全に止まった」と判断し、その結果株価が売られたのです。
もちろん、来期の予想は、会社側が発表するものですから、必ずその通りの業績になるわけではありません。プロの投資家は、会社が発表した業績予想をそのまま信じて投資判断をするのではなく、企業分析を行い、独自に業績の予想を割り出します。
ですから、今後ラオックス側の2016年12月期の業績予想があまりに保守的で、実際はこれよりかなりいい数値になりそうだと多くのプロ投資家が判断すれば、再び株価は上昇基調に転じる可能性だって当然あります。
プロのように独自に業績を予想することができない個人投資家は、もちろん2016年12月期の会社予想を信じて、ここからの成長は難しいと感じれば他の銘柄に移ってしまえばよいでしょう。
また、ラオックス株を今後も投資対象候補とするのであれば、株価の動きを定期的にウォッチして、下降トレンドの間は手を出さず、上昇トレンドに転じたら新規買いすればよいと思います。
では、決算数値をしっかり見ていなかった、あるいは決算数値を読み取る知識がなかったならば、誰もがラオックス株で大損してしまったのかといえば、決してそんなことはありません。業績の変化にタイムリーに気づくことができなくても、株価トレンド分析を使っていれば、高値圏で株を売却し、その後の新規買いを控えることができたのです。
改めて株価チャートをみていただくと、2015年7月24日に564円の高値を付けた後、8月中旬に25日移動平均線を割り込んでいます。このタイミングで保有株を売却すれば、470円前後、悪くても400円以上で売却できました。そしてその後は25日移動平均線を下回る状況が続きましたので、新規買いを控えていれば長期間続く大きな下げによる損失を回避することができたのです。これは過去のチャートをさかのぼって結果論を話しているのではなく、筆者が実際に行ったことです。ですから株価チャートをチェックして、株価が25日移動平均線を割り込んでトレンドが変化したことに気づきさえすれば大損は十分に防げたのです。
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本資料は情報提供を目的としており、投資等の勧誘目的で作成したものではありません。お客様ご自身で投資の最終決定をおこなってください。本資料の内容は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手・編集したものですが、その情報源の確実性まで保証するものではありません。なお、本資料の内容は、予告なしに変更することがあります。
足立武志
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株式等は株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。上場投資信託(ETF)は連動対象となっている指数や指標等の変動等、上場投資証券(ETN)は連動対象となっている指数や指標等の変動等や発行体となる金融機関の信用力悪化等、上場不動産投資信託証券(REIT)は運用不動産の価格や収益力の変動等、ライツは転換後の価格や評価額の変動等により、損失が生じるおそれがあります。※ライツは上場および行使期間に定めがあり、当該期間内に行使しない場合には、投資金額を全額失うことがあります。
上場有価証券等のうち、レバレッジ型、インバース型のETF及びETN(※)のお取引にあたっては、以下の点にご留意ください。
※「上場有価証券等」には、特定の指標(以下、「原指数」といいます。)の日々の上昇率・下落率に連動し1日に一度価額が算出される上場投資信託(以下「ETF」といいます。)及び指数連動証券(以下、「ETN」といいます。)が含まれ、ETF及びETNの中には、原指数の日々の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じて算出された数値を対象指数とするものがあります。このうち、倍率が+(プラス)1を超えるものを「レバレッジ型」といい、-(マイナス)のもの(マイナス1倍以内のものを含みます)を「インバース型」といいます。
信用取引は取引の対象となっている株式等の株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。信用取引は差し入れた委託保証金を上回る金額の取引をおこなうことができるため、大きな損失が発生する可能性があります。その損失額は差し入れた委託保証金の額を上回るおそれがあります。
国内株式の委託手数料は「ゼロコース」「超割コース」「いちにち定額コース」の3コースから選択することができます。
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但し、原則として当社が指定するSOR(スマート・オーダー・ルーティング(※1))注文 のご利用が必須となります。(当社が指定する取引ツールや注文形態で発注する場合を除きます。)
ゼロコースをご利用される場合には、当社のSORやRクロス(※2)の内容を十分ご理解のうえでその利用に同意いただく必要があります。
※1 SORとは、複数市場から指定条件に従って最良の市場を選択し、注文を執行する形態の注文です。
※2 「Rクロス」は、楽天証券が提供する社内取引システム(ダークプール(※3))です。
※3 ダークプールとは、証券会社が投資家同士の売買注文を付け合わせ、対当する注文があれば金融商品取引所の立会外市場(ToSTNeT)に発注を行い約定させるシステムをいいます。
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但し、原則として当社が指定するSORのご利用が必須となります。(当社が指定する取引ツールや注文形態で発注する場合を除きます。)
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取引金額 取引手数料
5万円まで 55円(税込)
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 115円(税込)
50万円まで 275円(税込)
100万円まで535円(税込)
150万円まで640円(税込)
3,000万円まで1,013円(税込)
3,000万円超 1,070円(税込)
〔超割コース(信用取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 148円(税込)
50万円まで 198円(税込)
50万円超 385円(税込)
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1日の取引金額合計 取引手数料
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200万円まで 2,200円(税込)
300万円まで 3,300円(税込)
以降、100万円増えるごとに1,100円(税込)追加。
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