日銀が2月から実施している「マイナス金利政策」は、資産運用の世界にも大きな影響を及ぼしています。第322回のコラムから2カ月が経過し、徐々にマーケットへの影響も明らかになってきた今、これまで私たちが経験したことのないマイナス金利という現実、これに個人投資家としてどう向き合っていくべきかどうか、考えてみたいと思います。
現在の日本の10年物国債の利回りは、マイナス0.1%前後で推移しています。通常、長期金利といえば10年物国債の利回りを指します。すでにスイスでは長期金利がマイナス域に達していましたが、ついに日本もその仲間入りを果たしたわけです。
10年物国債の利回りがマイナスですから、それより短い年限の国債の利回りももちろんマイナスになっています。
驚くべきは、超長期の国債利回りで、20年物が0.4%前後、30年物が0.5%前後、40年物が0.6%と軒並み利回りが低下しています。
世の中で40年間といえば、実に様々な出来事が起こります。当然、金利も過去40年間のあいだ、上下に大きく変動しました。債券を保有する場合、金利が上昇すれば債券価格が下がり、含み損を抱えることになります。通常の感覚では、40年物の国債を0.6%という異常なほどの低金利で買うこと自体、非常にリスクの高い行為となりえます。でも、マイナス金利下の日本では、当たり前のように40年債が0.6%水準で取引されているのです。
40年保有し続ければ損失は生じませんが年間わずか0.6%の利息しか受け取れません。今後の債券価格値上がり期待が込められた価格なのかもしれませんが、それでもリスクが高いと思わざるを得ません。
このように、現時点でマイナス金利政策による影響が最も顕著に生じているのが国債マーケットです。まずはこの現状を把握してください。
では、株価や為替レートに対しては、マイナス金利政策はどのような影響をもたらしたでしょうか。
1月下旬、日銀がマイナス金利導入を発表した直後、株価は上昇、為替レートも円安に振れましたが、その効果は数日しか持ちませんでした。その後2月上旬には、株価の暴落と円高が同時に起こり、まるでマイナス金利の導入が株安と円高を引き起こしたかのようになってしまいました。
しかし、日銀としては金融緩和政策の一環であるマイナス金利導入により、株高・円安の効果を狙ったはずです。金融のプロである日銀でさえ、マイナス金利がマーケットに及ぼす影響を読み違えてしまったのです。
日本では超低金利政策が終わりを見せるどころか、金利がマイナスに突入するという新たな世界に入りました。超低金利がいつまでも続いたり、金利がマイナスになることなど、経済学では学びませんでした。経済の教科書に載っていない出来事が起こっているのが今の世の中です。
ですから、今後マイナス金利政策が日本のマーケットや為替レートにどのような影響を及ぼすのか、誰にも分からないのです。そもそも筆者はマーケットの先行きなど予測することはできないと常々思っていますが、今後はさらに「何が起きるか分からない」状況になっていくでしょう。
先行きを予測しても当たらないのですから、「これから日本株は上がる」とか「下がる」と予想し、それに資金をベットするのではなく、株価のトレンドにしたがって売買をするべきだと思います。専門家がそれぞれ異なる予想をしていても、株価のトレンドこそが、市場参加者全体としてのコンセンサスだからです。
ところで、1月の日銀によるマイナス金利政策発表後の株価や為替の動きをみて、筆者は「もう金融緩和が株価を上げる効果はあまり期待できない」と感じました。
金融緩和は、金利を引き下げて、企業の設備投資等の需要を促進し、それが他にも波及することで日本全体の景気の好循環を生み出すことを目的としています。
一方、金融緩和には大きな弊害もあります。それは、債券や預金の利子収入が減少することです。
債券や定期預金の金利が数%もらえれば、利息を受け取った人はそれを消費に回すことが期待できます。ところが、今のように定期預金に100万円預けても利息が10円ということになると、債券や定期預金を保有していてもほとんど収入が期待できなくなってしまいます。以前は得られた利息収入がなくなれば、特に年金暮らしの高齢者としては財布のひもをしめるしかありません。つまり、金融緩和は、債券や預金の保有者が得られるはずの利息収入を召し上げてしまうというデメリットもあるのです。金利収入を得ていた人たちは、金利収入が減ってしまえばその分消費を絞ることになり、これがデフレ圧力となります。
このように、金融緩和はインフレを目指すために実施する一方、デフレという副作用もあります。ですから、本来はデフレという副作用がまん延する前に、カンフル剤として金融緩和を行い、短期決戦で景気を引き上げてインフレに持っていかなければなりません。これをいつまでもダラダラと続けてしまうと、金利収入が減ることによるデフレ圧力のインパクトが増していき、結局はデフレの方向へ向かってしまうのです。
このように、金融緩和は続ければ続けるほどその効果は希薄になっていきます。ですから、金融緩和政策の追加発表をしても、次第に株価へのプラス効果は薄れていってしまうのです。これは日本だけでなく、アメリカも同様でした。アメリカはQE1~3まで実施しましたが、株価に最もプラスの効果を与えたのはQE1で、QE3のときはQE1よりかなり効果は小さくなっていました。
「潜在成長率」という言葉をご存知でしょうか。これは、言い換えればその国の経済の「実力」を示したものです。
日本でも、日本銀行が潜在成長率を推計していますが、2015年度上半期の数値はなんとわずか前年比0.23%にとどまっています。過去をさかのぼっても、1%を下回る水準が続いています。
つまり、今の日本の実力からすれば、1%の経済成長すら厳しいのが実情です。経済成長がほとんど見込めないのに、いくら金融緩和をしたところで2%のインフレなど到底無理な話だと感じてしまうのは、決して筆者だけではないと思います。
潜在成長率がゼロに近いということは、言い換えれば日本国内には十分なリターンを得られるだけの魅力的な投資案件がほとんど存在しないということを意味します。超低金利政策やマイナス金利政策は、金利を下げることにより新規の投資需要を掘り起こすことを目的としていますが、そもそも魅力的な投資案件がないのですから、いくら金利を下げようとも投資需要を掘り起こすことはできないのです。
逆に、上でお話ししたように、金融緩和の長期化により金利収入を得られなくなったことを要因とするデフレ圧力がますます高まっています。ですから、潜在成長率を引き上げずに金融緩和をいくら続けてもインフレどころかデフレになってしまいかねません。
本来なら、景気浮揚のためには財政政策が必要ですが、残念ながら積極的な金融政策の一方で、8%への消費税引き上げという「財政引き締め」を行ってしまいました。財政政策を出動せずにいくら金融緩和を行っても、日本経済への効果はあまり期待できないでしょう。
しかし、日本経済がいつまでもデフレから脱却できず、景気が低迷したとしても、日本株が上昇できないというわけではありません。金融緩和により、マネーがマーケットに供給され続けていることもまた事実だからです。
実際、足元の日本の景気は消費税増税の悪影響が色濃く出ており、非常に悪い状況です。直近の実質GDP成長率もマイナスです。それにもかかわらず日経平均株価はアベノミクス相場スタート時の約2倍の水準を保っています。高値を更新する個別銘柄も少なくありません。いくら不景気でも、業績を伸ばしている個別銘柄はいくつもあり、それらに投資すれば十分な投資成果を得ることができます。
テレビや新聞では日本の景気が悪いことがしょっちゅう報道されていますが、私たち個人投資家は、景気と株式投資とは別問題であることを十分認識しなければならないのです。
次回は、こうした点を踏まえ、具体的にどのような方針で今後の資産運用をしていくべきか、筆者なりの考えをお話ししたいと思います。
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足立武志
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株式等は株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。上場投資信託(ETF)は連動対象となっている指数や指標等の変動等、上場投資証券(ETN)は連動対象となっている指数や指標等の変動等や発行体となる金融機関の信用力悪化等、上場不動産投資信託証券(REIT)は運用不動産の価格や収益力の変動等、ライツは転換後の価格や評価額の変動等により、損失が生じるおそれがあります。※ライツは上場および行使期間に定めがあり、当該期間内に行使しない場合には、投資金額を全額失うことがあります。
上場有価証券等のうち、レバレッジ型、インバース型のETF及びETN(※)のお取引にあたっては、以下の点にご留意ください。
※「上場有価証券等」には、特定の指標(以下、「原指数」といいます。)の日々の上昇率・下落率に連動し1日に一度価額が算出される上場投資信託(以下「ETF」といいます。)及び指数連動証券(以下、「ETN」といいます。)が含まれ、ETF及びETNの中には、原指数の日々の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じて算出された数値を対象指数とするものがあります。このうち、倍率が+(プラス)1を超えるものを「レバレッジ型」といい、-(マイナス)のもの(マイナス1倍以内のものを含みます)を「インバース型」といいます。
信用取引は取引の対象となっている株式等の株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。信用取引は差し入れた委託保証金を上回る金額の取引をおこなうことができるため、大きな損失が発生する可能性があります。その損失額は差し入れた委託保証金の額を上回るおそれがあります。
国内株式の委託手数料は「ゼロコース」「超割コース」「いちにち定額コース」の3コースから選択することができます。
〔ゼロコース(現物取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
但し、原則として当社が指定するSOR(スマート・オーダー・ルーティング(※1))注文 のご利用が必須となります。(当社が指定する取引ツールや注文形態で発注する場合を除きます。)
ゼロコースをご利用される場合には、当社のSORやRクロス(※2)の内容を十分ご理解のうえでその利用に同意いただく必要があります。
※1 SORとは、複数市場から指定条件に従って最良の市場を選択し、注文を執行する形態の注文です。
※2 「Rクロス」は、楽天証券が提供する社内取引システム(ダークプール(※3))です。
※3 ダークプールとは、証券会社が投資家同士の売買注文を付け合わせ、対当する注文があれば金融商品取引所の立会外市場(ToSTNeT)に発注を行い約定させるシステムをいいます。
〔ゼロコース(信用取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
但し、原則として当社が指定するSORのご利用が必須となります。(当社が指定する取引ツールや注文形態で発注する場合を除きます。)
〔超割コース(現物取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
5万円まで 55円(税込)
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 115円(税込)
50万円まで 275円(税込)
100万円まで535円(税込)
150万円まで640円(税込)
3,000万円まで1,013円(税込)
3,000万円超 1,070円(税込)
〔超割コース(信用取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 148円(税込)
50万円まで 198円(税込)
50万円超 385円(税込)
超割コース大口優遇の判定条件を達成すると、以下の優遇手数料が適用されます。大口優遇は一度条件を達成すると、3ヶ月間適用になります。詳しくは当社ウェブページをご参照ください。
〔超割コース 大口優遇(現物取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
〔超割コース 大口優遇(信用取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
〔いちにち定額コース〕
1日の取引金額合計(現物取引と信用取引合計)で手数料が決まります。
1日の取引金額合計 取引手数料
100万円まで0円
200万円まで 2,200円(税込)
300万円まで 3,300円(税込)
以降、100万円増えるごとに1,100円(税込)追加。
※1日の取引金額合計は、前営業日の夜間取引と当日の日中取引を合算して計算いたします。
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