金も銅やアルミと同じ工業製品の1つです。つまり現物が存在しています。現物の受け渡しを伴わない先物取引やCFD取引等も、この実際に実物として金があるから成り立っているのです(一概には言えませんが、現物取引を伴わない指数等の先物は長続きしない傾向があります)。このコラムでは少し変わった切り口で金価格動向について解説をしていますが、やはり現物の生産や需要動向を抜きにして語ることはできません。そこで今回は金の供給動向について解説したいと思います。
現物の金の市場への供給ルートは大きく分けると鉱山から「全く新しく」生み出されるものと、既に金として生産されたものが市場に還流してくる場合の2種類があります。
鉱山からの生産はイメージしやすいですね。金鉱山を掘ってそこから原石を取得し、金を精錬する訳です。2011年の金の鉱山からの生産量は2,822トン(トムソン・ロイターGFMS社調べ)となっており、市場に供給されている金の約6割は鉱山生産によるものです。下のグラフは鉱山生産の推移と金価格の推移ですが、2008年のリーマンショック前までは非常に緩やかではありますが鉱山供給が増加すると価格が下がり、鉱山供給が減少すると価格が上昇するという関係になっていることが分かります。ですが、2009年以降は鉱山生産が増加しているにも関わらず価格が上昇しています。これは価格上昇を受けて生産者が生産量を増加させていることが一因です。金の生産コストは地域、鉱山によって異なりますが、2011年の平均生産コスト(掘削や精錬に関わる、人件費や燃料・電気代、ロイヤルティフィ(鉱山の使用料)、減価償却のコストの合計)は最も高い南アフリカで1,085ドル/トロイオンス、世界平均で809ドル/トロイオンスとなっていて、現在の価格水準であれば1トロイオンス当たり700~1,000ドル程度の収益が上がることになります。それは増産したくもなりますね。
ちなみに国別の生産量を見てみると、1位が中国、2位がオーストラリア、3位がロシア、となっており産金国のイメージが強い南アフリカは4位です。先程ご説明した通り、南アフリカでは生産コストが上昇していることや電力インフラが不安定なこと、鉱山会社の労使関係が必ずしも良好でなく、ストライキが頻繁に起きていることが生産量の伸び悩みに影響していると考えられます。
金の鉱山生産
金の鉱山生産シェア
次に「既に金として生産されたものが市場に還流してくる場合」ですが、これは簡単に言えば、退蔵(保管)されていた地金や工業品のリサイクルなどを通じて市場に再供給されるという考え方です。また更に、スクラップ、中央銀行・政府部門の売却、鉱山会社のヘッジ売り、投資家の売却の4種類に分類することができます。スクラップは携帯電話等に用いられている極細の電線や、歯科用の金歯、金の宝飾品、個人が保有している地金等で構成されています。よく町で見かける「金製品買い取ります」で買い取られた金もこちらに分類されます。2011年のスクラップ供給は1,671トンで、金供給の4割弱を占めます。スクラップ供給の特徴は、金価格が上昇すると供給量が増加する点です。下のグラフはスクラップの供給量と金価格の推移を重ねたものですが、高い相関関係があることが分かります。金価格とスクラップ供給量の関係を分析すると、金の価格が1ドル上がるとスクラップの供給が1.07トン増えることが分かります。(尚、1998年のスクラップ供給が価格と関係なく増加しているのは、アジア危機の影響で韓国も国家財政破綻の危機に陥りIMFの管理下にあった時の特殊な供給増加ですのでこの感応度分析には使用していません)。「このままどんどん価格が上昇したら、スクラップが無くなるのでは?」と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、2011年の世界の金の総在庫は17万トン、そのうち宝飾品と個人保有が合計で12万トン程度あると考えられていますので、12万トンが全てスクラップとして市場に供給されるためには、単純計算で今から価格が11万ドル以上、上昇しなければならない計算になります。さすがにその可能性は極めて低いでしょう。
金のスクラップ供給
次に中央銀行・政府部門の売却です。公的部門も資産を複数の通貨、複数の金融資産に分散して保有しています。金もその対象の1つなのです。金は利息を生まない金融資産ですので、一時公的セクターは金を売却して米国債等に乗り換える動きを見せていましたが、金価格の上昇やユーロ危機の影響で再び保有資産対象としての見直されるようになりました。その結果、2010年以降公的部門は新興国の購入により買い越しに転じています。欧州19カ国は年間の金売却数量に制限を設ける金売却枠(この合意のことをCBGAと呼びます)を設定していますが、現在の価格水準を考えると売却枠の制限とは関係なく、当面公的セクターからの供給は増加しそうにありません。
金の公的部門売却
最後に「鉱山会社のヘッジ売り」ですが、これは金生産者が金価格の下落によって損失を被るリスクを回避するために、先物市場等で売りを入れることを意味します。予め売る価格を決めておく取引と言ってもいいかもしれません。先物市場等で売りを入れた場合、期日に相手方に金の現物を受け渡しますので、結果的に市場に金現物が供給されることになります(もちろん純粋なデリバティブとして、差金決済して現物の受け渡しが行われない場合もあります)。ですが、鉱山会社の生産コストのところでもお話したように、現在の金価格は生産コストを遥かに上回る水準で推移していますので、わざわざ価格が下落するリスクを回避するためにこうした取引を行う必要性が低下しています。グラフの通り、2011年に10トン程度のヘッジ売りがありましたが、この10年間生産者の下落リスクヘッジ意欲は大幅に後退していると言えるでしょう。
生産者のヘッジ売り数量
まとめると、金の供給は鉱山からの生産とスクラップからの供給が重要ということになります。鉱山の生産は比較的安定していますので将来が読みやすい供給ソースですが、スクラップは先程の分析の通り金価格の水準に供給量が影響されますのであまり安定していません。ですが、価格が上昇した時には供給が増え、下落した時には供給が減りますので「大幅な価格の上昇と下落を抑制する効果」を持っていると言っても良いかもしれません。
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