楽天証券経済研究所 アナリスト 今中 能夫
1961年生まれ。1984年に岡三証券においてアナリストとなり、アナリスト歴20年以上。インターネット、ソフトウェア、エンタテインメントを中心にテクノロジー、サービスを幅広くカバー。
企業調査レポートや、毎週発表される前週時点の信用評価損益率を解説。また、決算発表予定銘柄についてもコメントしています。
日本企業の業績が電機、自動車などの加工型製造業中心に急速に回復しています。リーマンショック後の日米欧の不況と円高を、新興国経済の活況と徹底的なコストダウンで吸収し、リーマンショック前を上回る業績を挙げる日本企業が出てきました。ここでは、2011年3月期第2四半期(2Q)決算を題材にして、日本企業の今後を展望し、有望銘柄を見つけたいと思います。
まず、各セクターの主要企業の業績を一通り見てみます。表1、2は日本を代表する会社の四半期ベース営業利益の推移です(ただし、金融を除く)。リーマンショック(2008年9月)があった2008年7-9月期を境に、各セクターともつるべ落としのように業績が悪化しました。2009年1-3月期は多くの企業が大赤字に陥りました。
表1 2011年3月期2Q決算-営業利益:1
単位:億円
表2 2011年3月期1Q決算-営業利益:2
単位:億円
表3 ソニー、パナソニック、日立製作所の営業利益増減分析
(2011年3月期上期と2010年3月期上期の比較)
しかし、多くの日本のメーカーは、製品、部品、素材の原材料と工程を徹底的に見直し、海外で生産出来る物は海外に生産拠点を移して行きました。このようにして、多くの日本企業が徹底的なコストダウンを行いました。このコストダウンは、サブプライムショックが起きた2007年7月から継続的に続いている円高にも十分対応できるものでした。
また、サブプライムショックによってスローダウンしていた中国をはじめとする新興国経済が2009年から力強く回復し始めたことは日本企業にとって幸運でした。
2010年夏からの急激な円高でも、日本企業の利益回復の勢いは衰えていません。為替予約によって2Qの決済レートが1ドル=80円台半ばの企業が多かったこともありますが、円高デメリットを合理化や新興国での増収で吸収して増益となった構図です。
ちなみに、ソニー、パナソニック、日立製作所について、上期の増益要因を決算説明会資料から調べてみると表3のようになります。為替の円高デメリットや価格低下をコストダウンと拡販で吸収したことが分かります。
加工型製造業の業績回復傾向は今後も続くと思われます。
グラフ1 主要企業営業利益合計(単位:億円)
グラフ2 主要国の実質GDP前年比
グラフ3 為替レート:円ドル(単位:円/ドル、月次)
第一に円高が打ち止めになり、少しずつですが円安になり始めていることです。
第二に、新興国経済が、中国、インド、アセアン、南米など広い地域にわたって好調が続いていることです。これらの国々では金融が引き締め気味になっていますが、これは景気過熱を防ぐためなので、株価はともかくとして実需ベースの経済は成長が続くと思われます。
第三は、先進国経済にやや好転の気配が見えていることです。アメリカは、今年のクリスマス商戦が昨年よりも良くなると予想されています。通貨安と新興国経済の好調による輸出の好調、大規模な金融緩和と株価上昇による資産効果が効いていると思われます。EUは国によってばらつきがありますが、通貨安と金融緩和でドイツが回復しています。日本の年末商戦はエコポイント終了前の駆け込み需要で好調です。株価が1万円台を回復したことで東京では消費が戻ってきたようです。また円安が続けば、製造業の回復を通じて地方経済にも回復が波及する可能性があります。政策の支援が欲しいところです。
第四は、上述の各項目とも関連しますが、特に電機、自動車の様な技術革新を軸とした製品開発によって企業成長を図ろうという考えの強いセクターで、有力な製品群や需要地域が出てきたことです。電機では3Dテレビとその関連機器(3D対応ブルーレイディクスレコーダー、3Dデジカメ、業務用3Dカメラや各種編集機材など)、スマートフォン、タブレット型PC、それにこれらに関連する映画、ゲームソフトなどのソフトウェアです。この分野は、製品から部品、素材まで日本企業が優位性を持つ分野が多いのが特徴です。電子部品、電子材料は新興国企業の追い上げを受けながらも、なお強い競争力を保っています。自動車では、世界的なエコカーブームの走りは日本の自動車メーカーが作りました。日産の電気自動車「リーフ」が12月に発売されます。
なお、「中国リスク」については、引き続き警戒を怠れませんが、正常な状態に戻りつつあるようです。これまでの中国側の日本企業に対する経済的対応を見ると、レアアース禁輸と、日本企業が中国で生産した製品を中国から外国へ輸出する際に通関を遅らせることの二つです。今はこの二つとも解消される方向に向かっているようです。ただし、いつ再びこのような処置あるいはこれ以上の処置が行われるか不透明です。したがって、中国市場への関与が大きい会社としては、生産地を中国だけに集中させないこと、レアアースの代替品あるいは代替技術の開発に注力することが重要でしょう。
ちなみに、電機、自動車の大手は、概ね利益と生産の20~40%を中国で稼ぎ出しています。この程度であれば、中国事業が不都合になっても、他地域で取り返すことが出来ます。生産を台湾や中国のEMSに委託している場合や中国資本との合弁会社にしている場合もありますので、この場合もある程度保険になると思われます。ただし、ゲーム機は極端で、任天堂もソニーも台湾、中国のEMS会社を通すとはいえ、ゲーム機のほぼ全量を中国で生産しています。今回の日中紛争においては特に支障はなかったようですが、次もそうとは限りません。中国に集中する生産体制が今後も続くのかどうか、注意する必要はあるでしょう。
上述したような見方から本稿では今後の注目銘柄として、表4のようなリストを作ってみました。この中でここでは、電機セクターから、ソニー、シャープ、パナソニック、東芝、日立製作所、村田製作所、日本電気硝子を取り上げてみたいと思います。
表4 注目銘柄の業績推移
単位:百万円、円
表5 注目銘柄の株価とPER、PBR(2010年11月24日終値)
ソニーは2011/3期2Q決算の発表時に通期見通しを上方修正しました。上期は想定よりも円高になりましたが、これをコストダウンと増収で吸収しました。テレビは赤字が続いていますが、プレイステーション®3ハードウェアの採算が急速に改善し黒字となったことでゲーム部門が1Q、2Qと黒字になりました。通期でもテレビの赤字が予想されますが、半導体の採算改善、業務用放送機器の増収、ゲーム事業の採算改善で、期初見通しを上回る業績を達成できる見通しです。
来期もゲーム事業は増益となりそうなので、全体でも増益基調持続が予想されます。ただし、デジカメの採算が悪化しており、これが今後の課題となりそうです。
3Dでは技術的蓄積が豊富な企業ですが、3Dテレビは一年目は韓国サムスン電子に先行された模様です。市場もソニーが思ったほどは伸びていないようです。この理由の一つはコンテンツ不足で、消費者がまだ通常の液晶テレビと3Dテレビの価格差(約7万円)に納得していないということです。そこで、来期にソニーが採る可能性があるのが、40インチ以上の液晶テレビの半分以上に3D機能を標準装備し、通常型との価格差を縮小することです。3Dテレビを赤字覚悟で普及させ、黒字の3D対応BDプレイヤー、3D対応デジカメやハンディカムなどの周辺機器、3Dゲームソフト、3D映画といったソフトウェア、3Dコンテンツ制作用撮影機器などで、利益を確保、拡大する戦略です。アメリカで10月に発売したネットテレビでも、来期に3Dバージョンができる可能性があります。今のところ、3Dの周辺機器で稼ぐことができるのはソニーとパナソニックだけ、特にソフトで稼ぐことができるのはテレビメーカーとしてはソニーだけです。ソニーの独自性が現れるかどうか注目したいと思います。
シャープは2Q決算発表時に業績見通しを下方修正しました。円高で海外部門の採算が悪化していること、大型液晶パネルの採算が生産調整もあって悪化していることが主な理由です。一方で、液晶部門の損益構造が変化しつつあります。これまで稼ぎ頭だった30インチ以上の薄型テレビ用液晶パネルが、海外でのテレビ需給緩和によって生産調整に入っています。現在は生産調整から抜け出しつつありますが、利益面では下方修正要因となってしまいました。その一方で、高機能携帯電話、スマートフォンやタブレットPCに使う3~10インチ程度の小型液晶パネルと裸眼3D液晶パネルの需要が急増しており、これがシャープの新たな収益源となってきました。下期には小型液晶パネルが液晶部門の利益の中心になる模様です。小型液晶パネルの活況は来期も続くと思われます。また、上期に発売された3Dテレビの新型(クアトロン)は明るさ、立体感ともに他の3Dテレビに勝るとも劣らないものです。来期にはこの新型パネルの外販も開始されると思われます。2012年3月期は増益転換の可能性が高いと思われます。
パナソニックは既に三洋電機株の80%以上を保有しています。来年3月までにパナソニック電工とともに、完全子会社化します。その後、パナソニック本体を含む3社の事業を再編し、2012年1月から「新生パナソニック」がスタートする計画です。
パナソニックがパナソニック電工、三洋電機を子会社化し一体化する理由はいくつかあります。
第一は、三洋電機が持つ世界有数の太陽電池事業とパナソニック電工、パナソニック本体の住宅、ビル設備事業を組み合わせて、太陽電池とその関連事業を拡販することです。パナソニックが言う「家まるごと」「ビルまるごと」「地域まるごと」戦略の一環です。
第二は、エコカー用電池事業です。三洋電機は、ハイブリットカー用ニッケル水素電池で世界トップ、リチウムイオン電池も量産が始まるところです。これとパナソニックの自動車用電池事業を組み合わせます。パナソニックはアメリカのテスラモーターズに3%出資することになり、エコカーへの関与を強めています。
第三は、三洋電機の業務用厨房機器、冷熱機器です。これも、スーパー、コンビニ向けにパナソニックの省エネ技術と販路を使って国内外で拡販する方針です。
第四はテレビです。三洋電機は年間430万台(11/3期見通し)の液晶テレビを北米とアジアで販売しています。生産はEMSに委託生産し、北米ではウォールマートに卸しています。パナソニックの年間販売台数は年間2,100万台ですが、北米では台数は三洋電機と互角であり、ウォールマートルートも合わせて三洋電機のテレビ事業は大きな力になるでしょう。
業績は各社とも回復中です。特にパナソニックは、「イタコナ」と呼ばれるコストダウンが大きな成果を挙げました。各製品に使われている部品、材料を「板」と「粉」に分解し、コストダウンを追求するものです。販売面では新興国市場の開拓が軌道に乗り始めています。
原子力発電所の世界的なメーカーで、実績ベースでは世界トップです。フラッシュメモリーでも世界2位のメーカーであり、原子力、火力などの発電所向けを中心とする社会インフラ部門とフラッシュメモリーを中心とする電子デバイス部門が両輪です。
社会インフラ事業は安定成長しています。アメリカの中間選挙で政府支出の増大を嫌う共和党が勝ったため、建設金額が大きいため政府保証が求められる米国内の原子力発電所の建設にブレーキがかかるかもしれません。また、新興国向けは政府の支援が無ければ難しい事業です。一方で、国内市場は、原子炉の更新時期が近付いている発電所が多く、為替リスクがなく、東芝、日立、三菱重工の3社で分け合う良い市場です。全体では原子力事業は今後も安定成長が続くと思われます。
フラッシュメモリーは、価格の低下が続いていますが、スマートフォン、タブレットPC向け需要の増加が期待されます。
また、テレビ事業も注目されます。東芝は10月に開催されたCEATECにおいて、世界初の56インチ裸眼3D液晶テレビを参考出品しました。画面は綺麗で、裸眼でも十分立体に見えます。発売時期は不明ですが、高性能CPUを使ったCell REGZAに続き、東芝のテレビ技術の高さを見せるものです。
東芝も業績は回復中です。今後が期待されます。
日立は「間口」の広い会社です。原子力ではGEと提携しており、世界の4大原子力メーカー(グループ)、東芝=ウェスチングハウス、アレバ(フランス)、三菱重工業、GE=日立の一角を占めます。火力、水力の発電所でも世界的なメーカーです。大型コンピュータと情報サービスの国内市場では、日本IBM、富士通、日立、NEC、NTTデータなどの大手の1社です。自動車向け電装品も大手です。総合電機メーカーの代表格といってよい陣容です。また、日立建機、日立化成工業、日立金属など有力な上場子会社を抱えています。各々業界大手です。
難点は、業界最大手の分野が少ないことです。ただし、2Qの営業利益5.5%は、東芝の4.4%、パナソニックの3.9%、ソニー(持分法損益修正後)の4.6%を上回るものです。各事業部門の拡販、製品構成の改善、コストダウンを細かく行った成果と思われます。
通期の業績の伸び率にも大きなものがあります。また会社予想ベースのPERは現在9~10倍と大手電機メーカーの中で最も低い部類になります。
世界有数の総合電子部品メーカーです。生産する電子部品は、チップ積層セラミックコンデンサ、EMI除去フィルタ、表面波フィルタ、セラミック発振子など多岐に渡ります。このうち売上高の大きいものが通信機器やコンピュータに多く使われるチップ積層セラミックコンデンサです。世界シェア30~35%で1位(2位は韓国サムスン・エレクトロメカニクス 15~20%、3位はTDK 10%強)、また通信機器に使われるEMI除去フィルタは村田とTDKが市場を分け合っています。
コンピュータと通信関連のハイテク機器は、大量の電子部品を使います。電圧制御のために大量に使われるチップ積層セラミックコンデンサを例に取ると、3G携帯電話は300~400個の同部品が装着されているのに対して、スマートフォンは400~500個、タブレットPCには500~600個入っています。ノートPCも高機能化するにつれ装着個数が多くなり、ネットブックが300~400個なのに対して、今の高機能型ノートPCは600~700個入っています。また、テレビも同様で、2倍速テレビが700~800個なのに対し、3Dテレビのベースになっている4倍速薄型テレビでは1,000~1,100個です。
上期の村田製作所の成長は、スマートフォンや高機能携帯電話の伸びの恩恵を受けたためです。下期は、円高とネットブックの減少の影響が出る見込みですが、円高はコストダウンと、拡販で吸収できると思われます。ネットブックの減少は、タブレットPCへの過渡期のためでしょう。
来期を見ると、より高機能なスマートフォンの登場とこれの数量増、タブレットPCの本格化、3Dテレビの増加など増益を予想させる材料が多くあります。
液晶パネルの材料である液晶ガラス基板の大手で、トップの米コーニング(シェア約50%)、1位の旭硝子(約25%)に次ぐ3位(約20%)です。主な顧客は、韓国、台湾の液晶パネルメーカーと日本メーカーです。液晶ガラス基板は、液晶パネルの生産が元々日本で多かったため、国際取引が円建てになっています。ガラス基板の価格は四半期に数%ずつ下がっていますが、円高デメリットからは免れています。
液晶パネルは、中国での地場テレビメーカーの在庫増加や北米の売り上げ不振によって、2010年7-9月期から各社が生産調整に入っています。国内最大手のシャープは8月から最新鋭の堺工場の稼働率を20%~30%落としました。この減産は9月末で終了しており、今は生産を元に戻しているところです。一方で、北米のクリスマス商戦の動きが不透明です。この動きが日本電気硝子の液晶ガラス基板の生産販売にも影響しています。当社は、台湾メーカー向けに出荷していますが、台湾液晶パネルメーカーの生産調整が長引いており、当社の業績もスローダウンしています。
もっとも、株価を見ると、当社株はかなり割安な位置にあるようです。予想PERは7~8倍です。液晶パネルは来期には新興国市場中心に立ち直ると思われます。一桁のPERには長期的な投資妙味があるように思われます。
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