ここ数年、日本の上場企業を悩まさせるADRにまつわる、ある問題が起こっているのをご存知でしょうか?
「日本の上場企業であるD社はこれまで一度もADRの組成を行ったことがありません。それにも関わらず、いつの間にか米国でADRが組成され米国の投資家がD社のADRを保有していた・・・」
つまりその問題とはADRの裏付けとなる株式を発行する会社が知らないうちに、その会社のADRが作られ取引されるということなのです。すでにご紹介したようにADRを組成するのはそれほど難しい作業ではなく、ADRの裏付けとなる株式を確保することができれば、技術的にはどの会社のADRも作ることが可能なのです。
このようなADRは「スポンサーなしADR」と呼ばれ、主に金融機関の主導により発行されることもあり、取引所に上場されず主に店頭取引などで取引されることになります。
数年前まで「スポンサーなしADR」は、規制のために発行されるケースはまれでした。しかし2008年にその規制が緩和されたことを契機に、スポンサーなしADRの発行が急増しているため、こうした問題が起こりやすくなっているようです。
やっかいなのは、スポンサーなしADRが米国で流通される場合、米国の金融当局から株式の発行会社(この場合D社)がホームページで英語での情報開示などを求められる可能性があることです。ADRが発行されたことさえ知らない企業が、こうした規定に従うことは大きな負担を強いられることにつながりかねず、不運にも巻き込まれた会社が困ってしまうというわけです。
ところでADRにはその発行の目的や、発行を主導する立場が誰なのかによっていくつかの種類に分類されています。
特徴 | スポンサーなし | スポンサーつき |
---|---|---|
新規株式の発行を伴う増資 | 米国の証券取引所に上場が可能 |
|
既存株式をベースに組成 | 米国の証券取引所に上場が可能 |
|
主に店頭取引 (非上場) |
ADRの種類のうち最も発行件数が多いのは発行基準が低いレベル1のADRですが、取引所への上場は認められません。このため日本の個人投資家が取引が可能なのは、原則レベル2およびレベル3のADRに限られます。
レベル2はすでに米国以外の国で発行された株式を裏付けとして組成されるADR、レベル3は株式を新規発行し資金調達を伴う公募増資に利用される種類のADRです。ADRが裏付けとする株式の発行体が主導して作られるADRを「スポンサーつきADR」と呼びますが、レベル2およびレベル3のADRはいずれも「スポンサーつきADR」となり、上位のADRほど発行条件が厳しくなります。
ADRが証券取引所に上場するためには、米国企業が上場する際に求められる条件とほぼ同水準の要求を満たす必要があり、上場後も裏付けとなる株式の発行体による継続的な情報開示などが必要となります。このため、上場するADRは原株式の発行体が主体的に発行するレベル2以上のものでなければ、現地の上場基準に耐えられなくなってしまいます。情報開示要求を満たすためには原株式の発行体の関与が不可欠であり、取引所に上場できるADRの種類は発行するのが容易ではない上位のものに限られることになるのです。
ただ、よくよく考えてみれば、こうした規制は投資家にとって有利な条件といえます。
もともと米国株式市場の上場審査は世界的にも厳格であることが知られています。つまりこの基準をクリアすることのできる優良企業のみがADRを上場させることができ、一方で投資家は厳選された優良企業のみを取引することになります。成長途上の新興国企業にとってこのハードルは極めて高いと考えるべきでしょう。
また上場されるADRは情報開示についても、米国の上場企業と同等の継続開示を義務付けられます。これにより投資家は投資対象企業の業績推移などの投資情報を、米国証券委員会が管理する企業の開示文書データベース「EDGAR」などを通じてタイムリーに確認することが可能となるのです。また開示される文書は原則米国会計基準に基づいて作成されるため、同じセクターの米国企業と財務諸表を見比べたりすることも容易になります。
一般的に新興国各国の株式市場では、上場基準が先進国企業と比較してそれほど厳しくなく、ディスクロージャーの制度が充実していないなど市場の未整備な点が散見されています。発展途上の新興国市場故の問題として割り切ることもできますが、ADRであれば会社は必ず米国のディスクロージャールールを守ることになるため、投資家が取得できる情報の質と量はADRが有利です。
ADRを通じた新興国株式投資のメリットはこうした場面にもおよんでいるのです。
項目 | レベル2 | レベル3 |
---|---|---|
米国の証券取引所の上場審査を通過する | ○ | ○ |
すでに米国以外の市場に上場された株式を裏付けとする | ○ | |
新規に株式を発行しADRを組成する | ○ | |
外国企業が自ら発行する(スポンサーつき) | ○ | ○ |
米国の上場企業と同様の情報開示を実施 | ○ | ○ |
ADR小ノート No.3 2つの株価~原株式の株価とADR価格(2)
もう一つの主な要因はADRとその裏付けとなる原株式が、取引される時間および取引参加者が異なる2つの市場において取引されるという点です。例えばインドのB社を例にとると、日本時間の日中にB社の好決算報道からインドのB社株が上昇したにもかかわらず、同じく日本時間の夜中では米国経済指標の悪化を背景にB社株も下落するといったことがしばしば起こります。
ただしこれは主に短期的な現象であり、一定期間で平均すると、原株式とADRの価格はほぼ同様のトレンドをたどることが多いといえます。
米国株式等の取引にかかるリスク
米国株式等は、株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。また、為替相場の変動等により損失(為替差損)が生じるおそれがあります。株価指数連動型上場投資信託(ETF)は、連動を目指す株価指数等の変動等により損失が生じるおそれがあります。
米国株式等の取引にかかる費用等
米国株式等の委託手数料は、26.25米ドル/1回(1,000株まで)がかかります。1回の取引が1,000株超の場合は1株ごとに2.1米セント追加されます。売却時は通常の手数料に加え、SEC Fee(米国現地証券取引所手数料)が約定代金1米ドルあたり0.0000192米ドル(米セント未満切り上げ)。
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