(上)の「本土市場」では、中国本土のマーケットに各種の制約が課せられている状態をご説明しました。海外投資家にとっては、現時点でまだ参入しにくい市場であることがお分かりいただけたと思います。したがって、日本を含む外国からの中国株投資は、主要な投資対象が香港上場の銘柄に集中しているのが現状です。そこで以下、広義の中国株マーケットに含まれる香港市場についてご説明しましょう。
香港の取引所は、主板(メインボード)と創業板(GEM)の二種類が併存します。日本でいえば、前者は東証一部のような位置付けです。
大型優良株が多いメインボードは、2013年8月末時点での上場銘柄数が1395社。これに対し、比較的に規模が小さい企業が目立つGEMは、上場企銘柄数が 183社にとどまります。成長企業市場(Growth Enterprise Market)を意味するGEMは、日本のマザーズやジャスダックに相当すると考えてよいでしょう。
有望ベンチャー企業に資金調達の場を提供する目的で設立されたGEMは、株主数や売上高などの一定条件さえ満たせば、利益の計上がなくても株式の公開が認められます。中小型のIT・バイオ企業が多くみられるのが特徴です。なお、メインボード、GEMを問わず、香港に上場する銘柄はすべて香港ドルで売買されます。
ここで、香港市場に上場する銘柄の属性をみてみましょう。まず、大型優良株であるハンセン銘柄を押さえて置く必要があります。メインボード銘柄の中でも、最も指標性が高いといわれるハンセン指数を構成するのが同銘柄です。香港を代表する50社を組み入れたハンセン指数は、構成銘柄の多くが地元(香港)の優良企業。
例外として13銘柄がレッドチップ、10銘柄がH株※。
ハンセン指数構成銘柄の特徴は、その圧倒的なプレゼンス(存在感)にあります。銘柄数は香港市場全体の3%に過ぎませんが、時価総額ウェイトが全体の約半分を占めます。
主な個別では、石油生産最大手の中国石油天然気(00857/HK)や国有商業銀行の中国工商銀行(01398/HK)、通信キャリア中国最大手の中国移動(00941/HK)などがある。
ハンセン指数の構成銘柄 50銘柄 (2013年10月10日現在)
次に、H株について説明します。簡単に言うならば、中国本土に登記された企業が香港市場で発行した株式(香港市場に上場している本土企業)。日本株にたとえれば、トヨタが米国市場に上場し(ADR形式)、現地の投資家に売買の場を提供しているようなイメージです。こちらは香港投資家の売買対象になるので、他の上場銘柄と同様に香港ドルで取引されるのは言うまでもありません。
メインボードには、こうしたH株が150銘柄ほどあります。うち、H株指数を構成するのは40銘柄です。石油、化学、道路、電力、素材、運輸など中国を代表する重厚長大企業に加え、本土の銀行、保険があてはまります。
H株指数の構成銘柄 40銘柄 (2013年10月10日現在)
H株と似たところでは、同じく本土絡みの銘柄であるレッドチップも重要。
これを一言でまとめるならば、中国政府系の資本であるにもかかわらず、本社を香港に登記する形態の企業です。主要資産は中国本土にあり、現地でビジネスを展開しています。優良銘柄を意味する「ブルーチップ」をもじり、共産党を象徴する赤い銘柄(レッド)と呼ばれるようになりました。
資本構成に関する明確な定義はないものの、国営機関や省市部門など中国政府系の資本が35%以上を占める場合が多いようです。香港のほかは、税制上の都合でケイマン諸島、バミューダ諸島、バージン諸島などに登記される例もあります。
中国資本の企業が香港に上場している――という意味では、H株と実質的な違いはないのですが、一般に上場手続きの面でH株よりも簡便と考えられているようです。中国企業が本土登記のままで株式会社化→国内当局に対する域外上場申請→香港当局に対する上場申請、という段取りを経るよりは、一般の香港企業と同様の手続きだけで足りるレッドチップ形態の方がスムーズに話が進むというわけです。極端な話では、経営難の香港上場企業を買収して、国有企業の資産を注入するという「裏口上場」もみられました。
メインボードに上場するレッドチップは100銘柄ほどありますが、うち、レッドチップ指数を構成するのは25銘柄です。業種別ではコングロマリットや通信、IT、金融、サービス企業が多く、携帯電話キャリア2社のウェイトが全体の6割を占めます。
レッドチップ指数の構成銘柄 25銘柄 (2013年10月10日現在)
ここで注意しなければならないのは、H株銘柄のなかには、人民元建ての本土A株を同時に発行している企業がある点――。そして、(上)の「本土市場」で述べたA/B同時上場のように、A/H同時上場の銘柄のほとんどで、A株の株価がH株のそれを上回る状態が続いているのです。その理由は、A株の株価が閉鎖された本土市場という特殊な需給環境で高水準に決まるのに対し、H株のそれは国際マーケットの香港市場で合理的に決定されるためといわれています。
ところで、現時点でA株の発行が認められている中国系の香港上場銘柄はH株のみ。そもそも本土登記の純然たる中国企業なので、H株が本土市場でA株を発行するのは問題ないことです。これまでにも、建設銀行(00939/HK)や中海油田服務(チャイナ・オイルフィールド:02883/HK)、中国石油天然気(ペトロチャイナ:00857/HK)、神華能源(01088/HK)、紫金鉱業(02899/HK)などの大型有力株が相次いで同時上場を果たしました。
一方、現時点でA株発行が認められていないレッドチップも、近い将来、規制緩和で同時上場が解禁される方向です。第一陣の候補としては、中国移動(チャイナ・モバイル:00941/HK)、中国海洋石油(CNOOC:00883/HK)など時価総額が大きい大型優良株の名が挙がっています。
最後に、(上)の「本土市場」で触れたQFIIの逆の流れとして、中国本土の資金を海外(香港)に流出させる動きである適格国内機関投資家(QDII)制度に言及しておく必要があります。04年に導入を決定し、06年から順次開始されたQDIIは、原則禁止されている海外有価証券(主として香港上場株)の売買を中国の機関投資家に解禁するというもの。一定条件を満たした国内の保険会社、銀行、投信会社に対し、各社に付与した枠を上限に香港上場株への投資が認められています。
ところで、QFII枠が与えられた中国の機関投資家は、どのような銘柄を購入するのでしょうか。当初の対象が香港上場株に絞られる以上、「勝手知ったる中国企業」ということもあって、ほとんどがH株、レッドチップなどに向かうとみられます。したがって、QDIIの規制緩和が進むことは、取りも直さず香港マーケットの需給を改善させる要因といえます。
外国株式等は、株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。また、為替相場の変動等により損失(為替差損)が生じるおそれがあります。上場投資信託(ETF)は連動対象となっている指数や指標等の変動等、上場投資証券(ETN)は連動対象となっている指数や指標等の変動等や発行体となる金融機関の信用力悪化等、上場不動産投資信託証券(REIT)は運用不動産の価格や収益力の変動等により、損失が生じるおそれがあります。
上場有価証券等のうち、レバレッジ型、インバース型のETF及びETN(※)のお取引にあたっては、以下の点にご留意ください。
※「上場有価証券等」には、特定の指標(以下、「原指数」といいます。)の日々の上昇率・下落率に連動し1日に一度価額が算出される上場投資信託(以下「ETF」といいます。)及び指数連動証券(以下、「ETN」といいます。)が含まれ、ETF及びETNの中には、原指数の日々の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じて算出された数値を対象指数とするものがあります。このうち、倍率が+(プラス)1を超えるものを「レバレッジ型」といい、-(マイナス)のもの(マイナス1倍以内のものを含みます)を「インバース型」といいます。
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